冠動脈MRA CTとの違い

MRI

冠動脈 MRA は冠動脈狭窄を評価する MRI画像診断技術です。臨床で広く用いられている CT と比較して、次のような特長があります。メリットとして①ガドリニウム造影剤が投与しなくても検査可能である、②放射線被曝がない、③冠動脈石灰化の影響を受けにくい、という点が挙げられます。デメリットとしては、①検査時間が長い(10分程度)、空間分解能が低く、②診断能が限られている。特に検査時間が長いというデメリットにより、臨床での使用は限られています。冠動脈 MRA を撮影することが得意な限られた施設により、多くの検査が行われているのが現状になります。

非造影冠動脈MRA画像、左がVR画像、右がMIP画像。冠動脈3枝ともきれいに描出されている。

冠動脈 MRA の撮影には非常に高度な技術が求められます。この理由として、撮影対象が冠動脈という小さな構造物(3-4mm程度)、心臓の動き、呼吸の動きが挙げられます。

冠動脈 MRA は撮影時間が長いため、息止めではなく自由呼吸下で撮影を行う必要があります。呼吸による画像のブレを克服するために、ナビゲーターエコー法が用いられています。ナビゲーターエコー法は横隔膜の動きをトレースして、最大呼気時のみデータ収集を行うという方法になります。こうすることによって呼吸の動きを最小限にした画像が得られます。

左:横隔膜の動きをとらえるナビゲーターを横隔膜の頂部に設定する。右:横隔膜のナビゲーターエコー患者の呼吸に合わせて上下する。最大呼気時にのみデータを収集することによって、呼吸のブレの少ない画像を取得できる。

次に心臓の動きに対しては、動きが静止している時間にのみデータ収集を行うことで対策をしています。心周期で心臓の動きが比較的止まっているのは、収縮期末期と拡張中期(atrial kickの直前)になります。原則としては拡張中期を撮影に用います。データ収集を行うタイミングをacquisition windowといい、これを拡張中期に設定します。心拍数が上昇してくると拡張中期自体が短縮化していくため、収縮末期の撮影に変更します。

次に脂肪抑制と静脈の信号抑制です。冠状動脈の周囲には脂肪組織が多く、信号の抑制を行うために脂肪抑制を行います(SPIR法など)。また、冠状動脈のすぐ横に静脈が走行しているため、T 2 prepなどの技術を使用して静脈の信号を抑制します。

また、ニトログリセリンを用いて冠動脈の拡張を起こし、画質を上げる工夫を行っています。また、心拍数が高い場合にはベータブロッカーの使用も考慮します。

上記のような多様な技術を用いて、冠動脈の MRA は撮影されています。

冠動脈 MRA の診断に関しては1.5テスラと3テスラで違いがあります。

1.5テスラに関しては日本で行われた多施設共同研究の結果があります。127名の患者を登録して、X線冠動脈造影との比較が行われましたが、冠動脈 MRA の有意冠動脈狭窄の検出能は感度88%、特異度72%、陽性的中率71%陰性的中率88%と報告されました。

1.5T冠動脈MRA:左前下行枝と対角枝に狭窄を認める。
Kato S. et al. J Am Coll Cardiol. 2010 Sep, 56 (12) 983–991より引用

Assessment of Coronary Artery Disease Using Magnetic Resonance Coronary Angiography: A National Multicenter Trial

Kato S. et al. J Am Coll Cardiol. 2010 Sep, 56 (12) 983–991

冠動脈 MRA は冠動脈 CT と比較して診断の精度は低い結果になりましたが、冠動脈石灰化スコアが高い症例などにおいては冠動脈 MRA が動脈 CT よりも診断能が高かったという報告もあります。

Comparison of 3D free-breathing coronary MR angiography and 64-MDCT angiography for detection of coronary stenosis in patients with high calcium scores

Liu X. et al. AJR Am J Roentgenol. 2007 Dec;189(6):1326-32. doi: 10.2214/AJR.07.2805.

また、3テスラの MRI に関してはガドリニウム造影剤の投与が必要とされる報告が多いのが現状です。理由として、3テスラでは SAR(検査中に患者の体温が上がってしまうこと)の問題により、Steady state free precession(SSFP)が使用しにくいという考え方もあります。SSFPが使用できないことによりグラディエントエコー法で撮影しますが、造影剤なしだとどうしても信号が得られないという問題点があるのです。3テスラのMRAの診断能は1.5テスラよりも高く、冠動脈 CT に匹敵するという報告もあります。また診断能や撮影時間の問題に関してもCompressed sensingなどの高速撮影技術や人工知能を用いたDeep learing 再校正技術の発達により解決されつつあります。この領域の技術の進歩はとても早く、最新の情報を常に注視する必要があると思います。

Contrast-enhanced whole-heart coronary magnetic resonance angiography at 3.0-T: a comparative study with X-ray angiography in a single center

Qi Yang et al. J Am Coll Cardiol. 2009 Jun 30;54(1):69-76. doi: 10.1016/j.jacc.2009.03.016.

Non-contrast compressed sensing whole-heart coronary magnetic resonance angiography at 3T: A comparison with conventional imaging

Nakamura M. et al. Eur J Radiol. 2018 Jul;104:43-48. doi: 10.1016/j.ejrad.2018.04.025.

・日本循環器学会ガイドラインでは”冠動脈起始異常”、”川崎病の冠動脈瘤”の精査に関して推奨(class Ⅰ)(慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版))。

・非造影のT1強調画像を用いた、冠動脈の不安定プラークの診断の有用性を示す研究も報告されている。

High-Intensity Signals in Carotid Plaques on T1-Weighted Magnetic Resonance Imaging Predict Coronary Events in Patients With Coronary Artery Disease

Noguchi T. et al. J Am Coll Cardiol. 2011 Jul 19;58(4):416-22. doi: 10.1016/j.jacc.2011.01.056.
  • 冠動脈MRAの特徴(メリット: 放射線被曝がない、冠動脈石灰化の影響を受けにくい、造影剤の必要がない(主に1.5 Tesla)
  • 冠動脈CTよりも診断精度は低いが、被ばくがないため若年者や川崎病冠動脈、冠動脈奇形の診断には有用である。
  • 冠動脈の不安定プラークの診断に有用との報告もある。
  • 診断能や撮影時間の問題はCompressed sensingなどの高速撮影技術や人工知能を用いたDeep learing 再校正技術の発達により解決されつつある。

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