遅延造影MRIによる心筋バイアビリティ評価とは?

MRI
  • 心筋バイアビリティとは、心筋梗塞を起こした領域が生存しているか否か、すなわち侵襲的な治療を行う価値があるかどうかを判断する非常に重要な指標になります。主に虚血性心疾患(陳旧性心筋梗塞や狭心症)で問題となります。心臓 MRI は心筋バイアビリティの評価に特に有用な画像診断方法となります。現在用いられている非侵襲的な画像診断方法の中では、最も正確な心筋バイアビリティの情報を提供します。
  • 心筋バイアビリティの評価には遅延造影 MRI を使います。遅延造影 MRI は心筋梗塞の領域を高信号領域として描出します。遅延造影 MRI の空間分解能はおおよそ2 mm とされており、心筋 SPECT と比較して非常に詳細な評価が可能です。心筋 SPECT の空間分解能はおよそ10ミリと言われています。心臓 MRI の心筋バイアビリティの評価には壁内深達度(Transmural extent)という概念が用いられています。壁内深達度は心筋全体の厚みにおける梗塞心筋の厚みの割合(%)で定義されています。
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Figure 3, 貫璧性梗塞(動物実験):SPECTでもCMRでも検出可能。
Figure 4, 内膜下梗塞:SPECTでは検出困難だが、CMRでは検出可能。
Anja Wagner et al. Lancet. 2003 Feb 1;361(9355):374-9. doi: 10.1016/S0140-6736(03)12389-6.より引用

Contrast-enhanced MRI and routine single photon emission computed tomography (SPECT) perfusion imaging for detection of subendocardial myocardial infarcts: an imaging study

Anja Wagner et al. Lancet. 2003 Feb 1;361(9355):374-9. doi: 10.1016/S0140-6736(03)12389-6.
  • Kimらの論文が非常に有名な論文ですが、壁内深達度が50%より大となると心筋バイアビリティが期待できないとされており、50%以下であれば心筋バイアビリティは残存していると考えられています。非常に古い論文ですが、この概念が今も臨床に用いられています。

The Use of Contrast-Enhanced Magnetic Resonance Imaging to Identify Reversible Myocardial Dysfunction

R J Kim et al. N Engl J Med. 2000 Nov 16;343(20):1445-53. doi: 10.1056/NEJM200011163432003.
  • 心筋バイアビリティの評価は治療方針に直結します。すなわち心筋バイアビリティがない領域に侵襲的な治療を行ったとしても、心機能の改善は得られないので、患者さんに無駄な侵襲を与えてしまうことになります。今は、ベータブロッカーなどの薬物療法も非常に進歩しているので、心筋バイアビリティがない場合には薬物療法だけで経過を見るのも良い判断となります。
壁内進達度50%より大になると、血行再建治療後の壁運動改善の割合が低下する。

・実際の画像を見てみましょう。下に示してあるのは遅延造影 MRI の短軸像です。左の患者さんは下壁に心筋梗塞を認めますが、壁内深達度は50%までです。ですので心筋バイアビリティは保たれていると判断できます。一方、右の患者さんは前壁中隔に心筋梗塞を認めますが、壁内深達度は100%に近いです。ですので心筋バイアビリティは乏しいと判断されます。実際の臨床では、短軸像のみでは判断が難しいことも多いので、長軸像など別の断面を一緒に評価したり、シネMRI などで動きも一緒に評価してバイアビリティの有無を判断することが多いです。

遅延造影MRIの短軸像。(左)下壁に壁内進達度50%程度の梗塞を認める。梗塞領域の心筋バイアビリティは保たれている。(右)前壁中隔にほぼ貫璧性の梗塞を認める。心筋バイアビリティは乏しいと考えられる。

・心筋バイアビリティのある患者さんに有効な血行再建を行うとreverse remodeling(逆リモデリング)という現象が起きます。心臓というリモデリングは心臓の内腔が大きくなり収縮能が低下することを言いますが、これと逆の現象が起きます。これをreverse remodelingと言います。つまり心臓が小さくなり収縮能が改善する。風船で例えるなら小さくて収縮性の高い風船に戻るということです。下の図で言うと上段がreverse remodelingが得られた症例、下段が得られなかった症例となります。

  • 心筋バイアビリティとは、梗塞部位が生存しているか否か?つまり侵襲的な血行再建術(PCIもしくはCABG)で心機能改善が期待できるか否か?ということ。
  • 術前にバイアビリティが無い=死んでしまった心筋=侵襲的な治療の対象外となる。
  • 血行再建術の前にバイアビリティを評価するのは重要 ∵心筋バイアビリティがない場合には治療効果がない、患者への無駄な侵襲を避けるため。
  • 心筋バイアビリティ評価には 空間分解能の高い遅延造影MRIが最も正確
  • 遅延造影MRIの壁内深達度で心筋バイアビリティを評価する(50%がカットオフ値)。

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